それはSOSから始まった――映画『アンダンテ』
2010/04/28
4月23日松戸市民会館で、映画『アンダンテ〜稲の旋律〜』(監督=金田敬・原作=旭爪あかね)の上映会が開かれた。夜の部に、ぎりぎりセ一フ、ぜいぜい息を切らして駆けつけた!「みわさん、間に合いましたネ」と声をかけられ、ひやり。
稲のうねりが醸し出す旋律の、青々とたなびく田んぽに、投げられた、カラカラの透明ボトル。田んぼの水に浮かぶ空虚なその中には、SOSを発した千華の手紙が入っていたのだ。
「働いていません。結婚していません。…学んでいる最中でもありません」。“ません”“ません”と否定が続くことから、苦しみがぎりぎりと伝わってくる。
“ひきこもり”という、今の世の中に多くある状態の辛さを、映画の中で一緒に、観客は体験したかもしれない。
千華の母の苦しみも、途中から、重なってくる。最後のシ一ンでは、主人公が、アンダンテ─歩く速度で─のテンポでゆっくりと自分を取り戻しつつ、ピアノを弾く。その姿が、山や稲や人々と溶け合っていく姿を暗示していて、力強い。そして、澄みきった空気とともに、千華の歌声が響き渡るのである。
最後の画面が終わって光が消えたら、すぐ斜め前の中年の女性が隣の席の方に、「うちの娘も、ひきこもりだったのよ」と、私にも聞こえる声でおっしゃった。映画を観終わり、思わず、そのように声を発したかの風情だ。
もう、“もうどうにもならない”と思ったときは、
SOS
だ。
SOS
は、“強く生きたい”の出発信号なのだから、そのあとのことは考えず、まず発しよう。
この頁トップへ