雨の日の思いやり
2010/04/28
ああ、間に合わない。ギリギリまで話しこんだのが、まずかった。大慌て。有料駐車場を、サア急いで出ます。あせる、あせる。朝の9時40分からの公務にチコクしないように。
駐車場出口まで移動して、はい200円ね。はい、はい、200円、200円。アラ一ッ!!ない。どうしよう、財布の中は、100円玉と5千円札一枚だけ。自動販売機は?と、見回すと、やっぱり使えない5千円札。
後ろを見ると、駐車場を次に出る車が、私の後ろにピッタリくっついて待ってらっしゃるではないか。え、どうしよう。公務は間に合わない、10時の前には1本、暮らしの緊急相談で法律事務所に電話をどうしても入れなきゃならないし……。
それよりも何よりも、後ろの方が待ってらっしやる。申し訳ない、どうするのよ私!オロ、オロ---もう。「すみませえん」と、仕方なく事情を説明。 後ろの車の若い女性の隣の席の小さな女の子が、キョトンとした表情で“あわて者のオバサン”を見ている。
「いくら足りないンですかあ?」とゆったりとおっしゃりながら、その女性が100円硬貨を差し出して下さった。「え、そういうわけには……。ごめんなさい、申し訳ない、必ず、後ほどお返しいたします。ご住所とお名前は」――早口で、雨に濡れながら私は、あわてっぱなし。「いえ、要りません。じゃあ、ほかの方にどこかで、100円あげてくださいますかあ」
思いがけない提案に、ますます慌てふためく私。名刺を差し出す。「いいの、いいの、いいんです」「じゃあ、こうしましょう。この子たちのために、お仕事でお返しして下さいな」
降りしきる雨。この若いお母さんの提案、思いやりに、私は胸うたれた。私の不用意な行動に反省しきり。「お仕事で、お返しを、この子たちのために……」─何度も、何度もつぶやきながら、車を走らせた。こんな風に言われたのは初めてで、「この子たちのために」という最後の一言がじいんと胸にこたえた。
100円の借りは、未来への募金。私はずっと、忘れてはいけないのだ、この雨の日の思いやりを。
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