息子、夜行バスに乗って……
2010/03/10
今春、大学を卒業する息子が、転んで頭をうってしまった80近い私の母のところへ、走ってくれた。「私は、まだ議会中だからね、何とかならないかね、ばあちゃんが心配だね…」涙ながらのこんな私の呟きに応えてくれた、優しい息子に感謝、感謝である。
しかし、「新幹線で行きなさい」と私が言うのに、「いや夜行バスで行く」と言う息子。“そんな……事故にあったら、どうするの?”なんて言う私の心配をよそに、息子はさっさとバスで出発。「安いんだよ」とにっこり。
若いからどこへでも、へっちゃらで移動する世代は頼もしい。まあ、本当に大きく成長したことよ。小さい頃は、すぐに車酔いしたのにね。信じられない。昔っからこの子は、アニメ「となりのトトロ」のメイそっくりの大きな口をあけて、ようく笑う子だったけど、笑うたびに、ぐんぐん、大きくなっていった気がする。私は、あの子に何をしてあげたでしょう。
そうだ、隣のトトロの「猫バス」だ!と、私はふと思った。息子を乗せた夜行バスは東京から、どんどん離れ、山を超え海を抜けて、“もう着いたかな”と明け方に目を覚ました私は思ったり…。
一夜あけて、何度も何度もメ一ルをして、やっと着いたことを確認し、胸をなでおろした。かわいい孫が、わざわざ千葉から来てくれたと、母は喜んでくれている。ああ、よかった。
アニメでは、幼いメイが、病気の母さんに会いたくて、家を飛び出し道に迷う。猫バスが助けてくれて、母さんのいる病院までメイとさつきを運んでくれるストーリー。
まんまるの目をぎょろりとさせて、大きな足で走る猫バスは、実にすばらしい存在感だ。家族みんなで、『隣のトトロ』を観た昔が懐かしい。猫バスの登場で、がぜん、活力があふれたあの場面。隣のトットロ、トットロ――軽やかな、歌――まで思い出したが、さて、さて外は氷雨。そして雪が激しく舞い始めた。
昨今は、内定取り消しだの最悪の雇用危機だのが、氷雨のように息子たちに突き刺さる。この春新たな旅立ちをする息子よ、嵐が吹こうが何が来ようが、いつも応援してるからね、どうか、立ち向かって欲しい。(“はい、はいわかってる”よと息子の影の声)
ふたたび母を想い、息子を想う。今頃、ふたりで笑っているかなあ、母は嬉しくて泣いているかなあ――娘のわたしの勝手な独り言。
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